第30話 良薬【ダンジョン飯各話考察】
良薬口に苦し
"本当に自分のためを思ってしてくれる忠告は、ありがたいが聞くのがつらい(孔子家語)"
ギャグ少なめですがどっぷりとキャラクターと話に深入りできる好きな回です。
※この記事はダンジョン飯第5巻とそれ以前のネタバレを含んでいます。
物語を最大限に楽しむために、掲載分を読んでいない方はブラウザバックを推奨します。
第30話 良薬
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.33 /KADOKAWA エンターブレイン)
扉絵。若かりしチルチャックがスリをしているように…見えなくも無い一枚。
ダンジョン飯はダンジョンが舞台なだけあって雑踏が描かれることが滅多に無いので貴重です。ぱっと見たところ、トールマンが圧倒的に多く、ドワーフ、ノームと続いていますね。人口比率もそんなものなんでしょうか。
オークの集落に迷い込む4人。チルチャックとセンシは意識があり、マルシルは魔力不足、ライオスは意識不明。
オーク族長の妹引き連れたオークの集団と出会いますが、登場オークのデザインが少し変わっています。
ハルタ付録のデイドリームアワー2では「人間寄りのデザインにしすぎて面白くなかったと反省した」というコメントが。
(『デイドリームアワー2』ハルタ付録 p.16 /KADOKAWA エンターブレイン)
オークからみて、それぞれ特徴的な身体の部位で人種を呼び分けているのは、作者がフラットな視点でこの作品を描いているのが顕著に表れていて好きなところです。
ドワーフ→地底人
ハーフフット→小人
トールマン→足長
エルフ→耳長
とそれぞれ呼ばれています。
ダンジョン飯のパーティメンバーは各種族の言葉ではなく、共通語で会話しているという設定ですが、オークたちが話す言語は共通語なのでしょうか。
ゾン族長の妹はセンシたちと自然に会話しています。しかし2巻のオークとの邂逅を見返しても、ゾンとその妹がセンシたちと会話しているシーンはありますが、他のオークを交えた会話はありません。
唯一あるのがゾンの息子にマルシルが話しかけるシーンです。
(九井諒子『ダンジョン飯(2)』p.51 /KADOKAWA エンターブレイン)
オークは炎竜討伐後風呂に入り体を洗ったことで、薄くなっていたセンシの匂いに気づき、センシが今まで交流していた野菜売りだとわかります。
このシーンは2巻【オーク】と同じ流れで、センシの顔がオークの間ではかなり通っていることがわかります。
(九井諒子『ダンジョン飯(2)』p.38 /KADOKAWA エンターブレイン)
ゾンの妹は「族長に代わって礼を言う」とオーク流の処置でライオスとマルシルに薬を与えた後、オークの妹から炎竜は狂乱の魔術師が直接使役していた魔物の一体だと教えられ、なぜ狂乱の魔術師に目をつけられたのかがここで明らかになります。
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.9 /KADOKAWA エンターブレイン)
…ということはもし冒頭で炎竜を倒していたら、どちらにしても狂乱の魔術師に狙われていたということです。
過去にもこのようなことがあり、目をつけられて生還したパーティはないとの話で…、咄嗟の判断で攻撃をしのいで4人とも生き延びたライオスパーティがいかに優秀であるかがわかります。
チルチャックはファリンを助けることを諦め、嘘をついてでも全員で地上に戻ったほうがいいと話をしますが、ゾンの妹はその発言に嫌悪感を示します。
センシを「友」と呼ぶ族長、「お前の頼みなら仕方ない」と要望を受け入れる妹を見ると、ダンジョンのオークはとても義理堅い性質の種族のように描かれています。
対照的にハーフフットは信用がなく金にがめつい種族だという描写が多いです。(おそらくこれがさらに掘り下げられ、ハーフフットは偏見に苦労しているという設定に行きついています。)
この汚いものを見るような目
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.42 /KADOKAWA エンターブレイン)
チルチャックはライオスの行動を「ぞっとした」と評していますが、連載最初期から一貫して出来るだけリスクを最小限に抑え(特に仲間の負傷・死亡を避けて)行動することが最善だと考えているように見えます。チルチャック当人は利己的というよりは堅実な性格で、自分と仲間の命ためならば嘘をも厭いません。
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.28, 『ダンジョン飯(1)』p.127 /KADOKAWA エンターブレイン)
狂乱の魔術師登場で置きっ放しにしていたカエルスーツや衣服、荷物を回収。この後ライオスとマルシルの服装が戻っています。
オークは日常的に魔物を食べているようで、「炎竜を食べた」という話にゾンの妹は「倒した者の特権」と反応しています。
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.50 /KADOKAWA エンターブレイン)
「俺は臆病だし自分の命が一番大事だからな」というチルチャックの言葉を嘘と見抜くゾンの妹。今まで出てきたキャラクターの中でも特に人に対する洞察力が鋭いです。
「竜を食べた」と語ったときのチルチャックの愛おしそうな表情を見ると仲間に対して情が薄い印象はなかなか持てないでしょうね。
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.50 /KADOKAWA エンターブレイン)
チルチャックの説得後、調味料が足りないので地上に戻りたいと切り出すセンシ。
ちょうど2巻8話【キャベツ煮】で調味料が不足するのが1ヶ月、30日とすると4人で約1週間換算となり、ちょうどセンシと出会ってから調味料が無くなる頃合いになっています。
(九井諒子『ダンジョン飯(5)』p.57, 『ダンジョン飯(2)』p.8 /KADOKAWA エンターブレイン)
ところで、2巻9話【オーク】で、ライオスの「炎竜の出た集落の場所を教えて欲しい」という求めに対して、ゾン族長が集落の場所を教える場面。
ゾン族長の妹が登場したことにより、この当時彼にも大切な妹がいたことがわかり、何故少しの沈黙ののちライオスに教えたのか、「炎竜を安全に倒してもらう」という打算的な考え以外にも共感するところがあったのかもしれない、と考える余地が増えシーンの深みが増しています。
(九井諒子『ダンジョン飯(2)』p.53 /KADOKAWA エンターブレイン)
以上、30話はオークの再登場を通じて9話との繋がりが深く、今まで小出しにしてきた設定を活かして話を掘り下げつつまとめるというテクニカルな回です。
炎竜の身体がなくなっている、ケン助の不自然なアップ、と今後に繋がりそうな伏線も散りばめられているので今後も何度か読み返すことになりそうです。