第28話 炎竜6【ダンジョン飯各話考察】
※この記事はダンジョン飯第4巻とそれ以前のネタバレを含んでいます。
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第28話 炎竜6
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.147 /KADOKAWA エンターブレイン)
炎竜を倒しファリン復活、ファリンとマルシルのお風呂シーンから入ります。
一見読者に向けたサービスシーンに見えますが、このシーンの何気ないやり取りの中には後のストーリーにつながる細かい伏線が満載です。
・浴場の小ネタ
浴場の背景にある羽の生えたライオンのモチーフは、1巻から4巻に至るまでダンジョン内の至る所で見られるものです。黄金城のシンボルマークでしょうか。
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.148 /KADOKAWA エンターブレイン)
2巻14話【ケルピー】で使った石鹸。
石鹸はセンシの髭を洗うために使ったものの残りですね。
(九井諒子『ダンジョン飯(2)』p.178 /KADOKAWA エンターブレイン)
・マルシルの古代魔術とファリン
子供の頃転んで出来た傷のエピソードで、ファリン本人の記憶が戻っていることをはっきりさせつつ、以前より魔力が増幅しているということを描写しています。
ちなみにダンジョン飯では、魔力切れの表現として目の下にくまが描かれますが、ファリンの魔力供給によってマルシルの魔力が回復したことがわかります。魔力が不足するのは2度目で、18話【焼肉】ではウンディーネを飲んで魔力切れを回復させています。
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.150 /KADOKAWA エンターブレイン)
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.151 /KADOKAWA エンターブレイン)
また、マルシルの学生時代の専攻である古代魔術について、長い付き合いのファリンですら全く知らないという点も明らかになります。
ここでマルシルが古代魔術について全く触れなかったのは、ファリンが古代魔術によって蘇生されたことを後ろめたく思ってほしくなかったからかもしれません。
・地下四階層からの帰り道について
チルチャックは炎竜との戦闘前に見つけた、オークのワインを早速開栓して飲みながら会話しています。
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.44 /KADOKAWA エンターブレイン)
帰り道にオークの抜け穴が使えないのは、4巻よもやま話であるように、カエルスーツが乾くと毒手を通さない粘液がなくなり、効果がなくなってしまうためです。
マルシルと古代魔術について言及されるシーンがあります。
「妙だと思ってたんだ」「生活に困ってる風でもないエルフが迷宮に潜るなんて」というチルチャックの台詞からもわかるように、エルフの冒険者は基本的に迷宮に潜ることはほとんどないようです。マルシルの古代魔術専攻というものが如何に特異な学問かということがここでわかります。
チルチャックと話をしながら足をかくライオス。回復を得意としない(しかし早い)マルシルによる応急手当てのため、結合部分は完治していません。
・燃料引火と炎竜料理
竜のそばで料理をしようとするセンシを追いかける4人。走ると順に抜かされていくマルシルの身体能力の低さが描かれています。毎回仕込んでますね。芸が細かい。
相性もなくその場で強力な防御魔法を使ったファリンの異変は明確な伏線です。
ダンジョン飯に欠かせないセンシのお料理タイム。
五階到達時オークの野営地から手に入れた大量の小麦粉を使い、炎竜の体内をピザ釜に見たててピザを作ります。
合間に男性陣も風呂に入りますが、普段風呂に入らないセンシはあまり気が乗らないようで、嫌々入っています。
ファリンを食べた炎竜を食べるという状況に戸惑う3人ですが、現実世界では人を食った動物を食い返すというシチュエーションがそうそうないため、なんとなく嫌悪の感覚が想像しづらいです。友人の肉を食った熊を狩って食べる、と想像するとなかなかに抵抗がありますが…。
1話のギャグをここに来てようやく回収。
(九井諒子『ダンジョン飯(1)』p.39 /KADOKAWA エンターブレイン)
「大体なぜ他の生物で竜の味を表現する必要がある!? これが 竜の味なんだ」
ライオスは竜に対しては特別な感情を持っていることが巻末よもやま話でも語られています。これは竜に限らずオタクあるあるですよね。
ほへ〜と反応するファリン、ここは直前のライオスとおそらく意図的に似せており血の繋がりを感じます。
ケン助をそっと出すライオス。独断での行動は信頼を失う、とチルチャックが怒ります。チルチャックは「ハーフフットは信用できない」という偏見と差別を受けながら育ってきたにも関わらず(寧ろ偏見と差別があったからこその性格なのかもしれませんが)、誰よりも責任感が強く信用を大切にしています。こういったハーフフットは実際珍しく、種族の中でも変わり者と言われているようです。
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.172 /KADOKAWA エンターブレイン)
食事終了、寝床の準備。
片付けや準備のシーンを丁寧に描くことで生活感が生まれ、これがダンジョン飯の見どころでもあると思っています。
泊まる民家は扉は沢山あるのに外に繋がるのは2つだけ、便所が7つ。こんなどうでもいい情報でもあとから生きてくるのがすごいところ。
・親友と兄妹
幽霊とコンタクトを取っているファリンとライオスの会話。何と話してたの?幽霊がいたの?とあえて聞き返さないのが良いですよね。
この二人でないと成り立たない異質な会話です。多く語らせず関係性を表現するのが巧みだと感じるシーンです。
「あの頃より私 ずいぶん大きくなっちゃった」
「何を生意気な!私の中じゃまだまだちびすけのままだからね」
この会話、一見ほほえましい親友同士のやり取りに見えますが、身体的成長が遅く時間感覚も異なるエルフのマルシルが、トールマンであるファリンの成長を実感できていないという風にも解釈できます。
人間がペットの身体年齢を見た目で把握できないように、マルシルもファリンの寿命を把握できていないのではないでしょうか。
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.176 /KADOKAWA エンターブレイン)
ファリンとライオスの会話では、はじめてライオスが口調を崩し、怒りを露わにするシーンがあります。ライオスに関してシリアスな場面もあまりなかったので、兄としての表情を見せるライオスはとても印象的です。
(九井諒子『ダンジョン飯(4)』p.177 /KADOKAWA エンターブレイン)
そしてラストに出てきた褐色のエルフ。
どこかで見覚えがあるはず。そう、2巻12話【宮廷料理】で登場した絵の中のエルフです。どうやら絵の中の世界の人物ではないようで。
(九井諒子『ダンジョン飯(2)』p.125 /KADOKAWA エンターブレイン)
4巻のラストで物語は一区切り、新章へと進みます。